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バントは損か得か。(バント戦術の、勝率案による計量的分析)

 

世界の川相選手が、バント数の世界新記録を達成しました。これは紛れも無くすごい記録です。

一方、バント戦術には賛否両論あります。バントは走者を進塁させる代わりにアウトを相手に一つ献上するわけですから、消極的な戦術であると敬遠する人も数多くいます。

それでは、このようなバント戦術は、本当のところ得なのでしょうか?損なのでしょうか?また、バント戦術はどのような場面で選択すべきであり、どのような場面では選択すべきではないのでしょうか?

 

この点について、以下のような点を分析していきたいと思います。

 

(1) バントが成功した場合の貢献値はプラスかマイナスか?点差やイニング、走者により、貢献値はどのように変化するか?

 

(2) バントを行う選手の攻撃に関する能力はどの程度か?仮に@において貢献値がマイナスだったとしても、当該選手の能力を示す貢献率が、当該局面でバントを行う場合の貢献率を下回る場合には、バントには意義がある。

 

(3) バントを行った後に打席に入る選手の能力。バントにより、仮に貢献値がマイナスだったとしても、次打者の局面値を上げ、次打者が非常に高い貢献率を誇る強打者である場合には、総合的には得になる可能性がある。

 

(4) その他の事項(バントの成功率など)

 

 

 さて、上記のような点について、具体例について考えてみましょう。例えば、1回表、同点、無死1塁から2番バッターがバントを行う場合について考えてみましょう。まさに、川相のバントしまくったケースですね。

 

(1) @1回表、同点、無死1塁の攻撃側の勝利確率⇒53.4%

A1回表、同点、12塁の攻撃側の勝利確率⇒51.4%

@・Aから、バントの貢献値は、マイナス2.0%となります。

 

(2) @1回表、同点、無死1塁の攻撃側の局面値⇒3.2%

したがって、バントを行った場合の貢献率は、マイナス62.5%となります。

 

(3) @1回表、同点、12塁の攻撃側の局面値⇒3.2%

A1回表、同点、11塁の攻撃側の局面値⇒2.7%

B1回表、同点、無死12塁の攻撃側の局面値⇒4.7%

この場合、川相がバントすれば100%成功、ヒッティングすれば、35%ヒット又は出塁、65%凡退だったとし、川相の後のクロマティの貢献率がプラス25%である場合、

バントしたケースでは、クロマティにより3.2%×25%=0.8%のプラスが見込まれる一方、ヒッティングした場合、(35%×4.7%+65%×2.7%)×25%=0.85%のプラスが見込まれます。

 

(1)から(3)の状況を見れば、以下のようなことが言えます。

 

まず、(1)から、バントを行ったことにより、チームの勝利可能性は「2%減少している」ことになります。したがって、バントの直接の効果は損、ということになります。

 

次に、(2)から、バントを行ったことによる貢献率はマイナス62.5%であるから、川相が仮にヒッティングを行った場合、貢献率マイナス62.5%以上の働きが期待できない場合には、バントが例え損であるとしても、川相にバントをさせることは致し方ないかもしれません。

それでは、貢献率マイナス2.0%とはどの程度の打撃なのでしょうか。

「貢献率の説明」の項を参照していただきたいのですが、「貢献率-OPS変換式」によれば、

OPS×1.3 – 1 = 貢献率

ですから、貢献率マイナス62.5%の選手はOPS=0.288のレベルです。少なくとも、川相は、これ以上の打撃は出来ると考えられます。川相が、仮にOPS=0.7程度の打撃が出来るとすれば、貢献率はマイナス9%0.7×1.3-1=-0.09)くらいと推定できるので、川相がヒッティングを行った場合の期待マイナスは。3.2%×9%=0.3%程度であると予想されます。したがって、バント戦術を選択したことによるチームのマイナスはマイナス1.7%ということになります。

 

最後に、(3)から、川相の後の選手の貢献ですが、川相がバントを成功させた場合は、クロマティの打席の期待局面値は3.2%であり、クロマティの打撃により0.8%のプラスが期待できます。一方。川相がヒッティングを行った場合のクロマティの打席の期待局面値は3.4%であり、クロマティの打撃により、0.85%のプラスが期待できることになります。

したがって、少なくともクロマティまで勘案すれば、バントを敢行したことによるマイナスはさらに0.05%増すことになります。

 

合計すれば、チームがバント戦術を選択した場合の期待勝利確率は、ヒッティングを選択した場合の期待勝利確率に比べてマイナス1.75%低いことになります。

 

以上のような点を勘案すれば、仮に川相が100%バントを成功させることが出来る腕だったとしても、バントという戦術を選択することは、相当に損、ということになります。

 

 

上記検討により、バントという戦術を選択する上で、どのような要素を勘案すればよいかが明確になりましたが、それでは、それぞれの要素は、走者、アウトカウント、イニング、点差等により、どのような影響を受けるのでしょうか?

以下、順に検討します。

 

(1) バントによる貢献値

 1回表、無死1塁からのバントの貢献値はマイナス2.0%でした。それでは、他の場面でのバントの貢献値はどの程度なのでしょうか?

 

@ 無死1塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス1.9%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス2.2%

1回裏 3点リード⇒マイナス1.0%

上記の結果から、リードしている場合のマイナス幅が小さいようです。バントは大量得点の可能性を引き下げる一方、次の1点獲得の可能性を引き上げようとする作戦ですから、リードしている場面では、次の1点の重要性が、次の次の1点の重要性より高いことを勘案すれば、これは自然な結論です。

 

1回裏 同点⇒マイナス1.9%

5回裏 同点⇒マイナス2.2%

9回裏 同点⇒マイナス1.4%

上記の結果から、結論はmixedですね。しかし、特に最終盤では1点の重みが大きいことから、バントによるマイナス幅が小さくなります。

 

A 無死2塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス1.8%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス2.3%

1回裏 3点リード⇒マイナス1.0%

上記の結果から、@とほぼ同じ結果です。リードしている場合のマイナス幅が小さいようです。自然な結論です。

 

1回裏 同点⇒マイナス1.8%

5回裏 同点⇒マイナス2.1%

9回裏 同点⇒プラス0.3%

特に最終盤では1点の重みが大きいことから、@よりさらに顕著にバントによるマイナス幅が小さくなります。

 

 

B 無死12塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス1.2%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス1.9%

1回裏 3点リード⇒マイナス0.5%

上記の結果から、@とほぼ同じ結果です。リードしている場合のマイナス幅が小さいようです。マイナス幅は、全体的に随分小さいですね。

 

1回裏 同点⇒マイナス1.2%

5回裏 同点⇒マイナス1.1%

9回裏 同点⇒プラス1.1%

 全体にAより、少し良いようです。

 

C 11塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス1.9%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス2.1%

1回裏 3点リード⇒マイナス1.0%

上記の結果から、@とほとんど変わりません。これは自然な結論です。

 

1回裏 同点⇒マイナス1.9%

5回裏 同点⇒マイナス2.4%

9回裏 同点⇒マイナス2.9%

最終盤でも、貢献値がプラスになることはありません。

 

D 13塁からのスクイズ

 

1回裏 同点⇒プラス2.6%

1回裏 3点ビハインド⇒プラス1.6%

1回裏 3点リード⇒プラス1.9%

スクイズの場合は(成功すれば)いずれもプラスのようです。大きくビハインドの場面では、アウトカウントを稼がれるので損ですね。

 

1回裏 同点⇒プラス2.6%

5回裏 同点⇒プラス3.6%

9回裏 同点⇒プラス21.0%

接戦であれば、終盤には非常に大きな意義があります。逆に、点差が開いている場合。例えば、9回裏 2点ビハインド⇒マイナス10.7%です。これらは常識からは離れていませんね。

 

 

上記のように考えれば、通常のバントが貢献値においてプラスになるのは、終盤の接戦という限られた場面しかありません。一方、スクイズはそれなりに有効なようです。

 

 参照 バント貢献値一覧表

 

 

(2) バントによる貢献率

 1回表、無死1塁からのバントの貢献率はマイナス62.5%でした。それでは、他の場面でのバントの貢献値はどの程度なのでしょうか?

 

@ 無死1塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス60.2%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス67.9%

1回裏 3点リード⇒マイナス55.2%

上記の結果から、リードしている場合のマイナス幅が小さいようです。バントは大量得点の可能性を引き下げる一方、次の1点獲得の可能性を引き上げようとする作戦ですから、リードしている場面では、次の1点の重要性が、次の次の1点の重要性より高いことを勘案すれば、これは自然な結論です。

 

1回裏 同点⇒マイナス60.2%

5回裏 同点⇒マイナス54.2%

9回裏 同点⇒マイナス19.0%

上記の結果から、接戦の場合には終盤に向けて、バントの有効性が高まります。特に最終盤では1点の重みが大きいことから、バントによるマイナス幅が小さくなります。

 

A 無死2塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス51.4%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス61.5%

1回裏 3点リード⇒マイナス44.8%

上記の結果から、@とほぼ同じ結果です。リードしている場合のマイナス幅が小さいようです。自然な結論です。

 

1回裏 同点⇒マイナス51.4%

5回裏 同点⇒マイナス43.4%

9回裏 同点⇒プラス2.9%

特に最終盤では1点の重みが大きいことから、@よりさらに顕著にバントによるマイナス幅が小さくなります。

 

 

B 無死12塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス27.1%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス39.0%

1回裏 3点リード⇒マイナス20.2%

これも、だいぶ良いですね。打てないレギュラーレベルです。

 

1回裏 同点⇒マイナス27.1%

5回裏 同点⇒マイナス18.6%

9回裏 同点⇒プラス10.9%

Aよりも相当高いです。

 

C 11塁からのバント

 

1回裏 同点⇒マイナス70.2%

1回裏 3点ビハインド⇒マイナス75.7%

1回裏 3点リード⇒マイナス66.7%

上記の結果から、@とほとんど変わりません。これは自然な結論です。

 

1回裏 同点⇒マイナス70.2%

5回裏 同点⇒マイナス66.0%

9回裏 同点⇒マイナス40.7%

最終盤でも、貢献値がプラスになることはありません。終盤では接戦において、若干ですが有効性が上がります。

 

D 13塁からのスクイズ

 

1回裏 同点⇒プラス59.1%

1回裏 3点ビハインド⇒プラス38.4%

1回裏 3点リード⇒プラス71.1%

スクイズの場合は(成功すれば)いずれもプラスのようです。大きくビハインドの場面では、アウトカウントを稼がれるので損ですね。リードの場面で有効です。

 

1回裏 同点⇒プラス59.1%

5回裏 同点⇒マイナス73.4%

9回裏 同点⇒マイナス138.8%

接戦であれば、終盤には非常に大きな意義があります。逆に、点差が開いている場合。例えば、9回裏 2点ビハインド⇒マイナス100%です。これらは常識からは離れていませんね。

 

 

上記のように考えれば、貢献率ではより性質が顕著になりました。

バントが比較的有効なのは、

@同点、又はリードしている場面で

A中終盤以降。

ということになりました。

一方スクイズは一般に有意義ということになります。

 

しかし、レギュラー選手であれば、ヒッティングであっても貢献率はマイナス30%以上であることが一般であり、バントの場合の貢献率が匹敵するか、これを上回るのはスクイズ以外には、

@無死12塁(1点負け、同点かリードでは常に。2点負けはマイナス35%40%

@7回以降の無死2塁(点差は同点かリード)

A8回裏以降の無死1塁(同点のみ)

しかありません。

 

参照 バント貢献率一覧表

 

(3) バントを行った後に打席に入る選手の能力。

 これは、どのような影響があるのでしょうか。

 以下のように、具体例を考えます。

 例えば、無死1塁からヒッティングした場合、50%の確率で11塁、15%の確率で12塁、25%の確率で無死12塁、10%の確率で無死13塁としましょう。

 同様に、無死2塁からヒッティングした場合、40%の確率で12塁、25%の確率で13塁、25%の確率で無死23塁、10%の確率で無死1(1点獲得)としましょう。

 無死12塁からヒッティングした場合、40%の確率で112塁、25%の確率で123塁、15%の確率で無死満塁、10%の確率で無死12(1点獲得)としましょう。

 1死のケースも同様とします。

1回裏の、バント後の局面値と、ヒッティングを行った場合の期待局面値の比較を行います。

 

バント後

1回裏

点差

1塁

2塁

12塁

1塁

2塁

12塁

-3

3.1%

4.1%

6.0%

2.8%

3.2%

5.3%

-2

3.3%

4.5%

6.5%

3.1%

3.6%

5.7%

-1

3.4%

4.6%

6.5%

3.2%

3.7%

5.9%

0

3.2%

4.4%

6.2%

3.1%

3.7%

5.6%

1

2.8%

4.0%

5.5%

2.8%

3.3%

5.0%

2

2.4%

3.4%

4.6%

2.4%

2.8%

4.2%

3

1.9%

2.7%

3.7%

2.0%

2.3%

3.3%

 

 

ヒッティング後